フィリピンは、ASEAN諸国の中でも最も急速に成長している国の一つです。
その中でも、公共サービス分野においては、外国企業の参入障壁が高く、フィリピン人もしくはフィリピン人が60%以上出資する企業だけが「公益事業」の運営・管理業務への参入を認められていました。
しかし、2022年3月に成立した公共サービス法の改正によって、「公益事業」の定義が明確化され、外資参入を期待する分野について外資の出資比率上限が撤廃されました。
本記事では、フィリピンの公共サービス法改正による外国企業参入の可能性と課題を取り上げます。
フィリピンの公共サービス法とその変更点
フィリピンの公共サービス法は、1936年に成立した法律であり、フィリピン人もしくはフィリピン人が60%以上出資する企業だけが「公益事業」の運営・管理業務への参入を認められていました。しかし、同法では「公益事業」の定義が明確でなかったため、これまで幅広い分野が「公益事業」と見なされ、外資系企業がフィリピンでビジネスを行う上で参入障壁となっていました。
改正法によって「公益事業」の定義が明確化されたことで、外国企業が参入しやすくなりました。また、フィリピンにとって外資参入を期待する分野については、外資の出資比率上限が撤廃されることになり、経済活性化が期待されることがポイントです。
公益事業の定義と改正法による変更
フィリピンの公共サービス法改正において、重要なポイントとなるのが「公益事業」です。改正法では、「公益事業」を「公共サービス(Public Services)」の一部として定め、以下のように定義されています。
「公共サービス(Public Services)」とは、国民生活や社会経済発展に必要不可欠な電力・水道・交通・通信・郵便・放送等のインフラストラクチャー及びそれらを提供するために必要な施設や設備を指す。
この定義からも分かるように、「公益事業」とは、国民生活や社会経済発展に欠かせないインフラストラクチャーやそれらを提供するための施設や設備を指します。
具体的には、以下のような分野が該当します。
公益事業
- 電気通信事業
- 電力事業
- 水道事業
- 鉄道事業
- 航空輸送事業
- 道路運送事業
- 港湾施設およびサービス
今回の改正法においては、外資企業の参入が容易になるように、一部分野では外資の出資比率上限が撤廃されています。
また、公益事業に該当するものでも、外資の出資比率が40%以下に制限される分野も存在します。これらのポイントを以下の表でまとめました。
出資比率40%以下に制限される公益事業 | 出資比率制限なしの公益事業 |
---|---|
電力の送配電 | 電気通信事業 |
石油・石油製品のパイプライン輸送システム | 電力事業(送配電以外) |
上下水道 | 水道事業(上下水道以外) |
港湾 | 鉄道事業 |
公共交通車両(内燃機関自動車で一般向けに対価を受け取り、乗客や国内貨物を運ぶサービスを提供) | 航空輸送事業 |
道路運送事業 | |
港湾施設およびサービス(港湾以外) |
外国企業参入に伴う課題と対策
フィリピンの公共サービス法改正によって、外国企業が参入しやすくなりました。しかし、外国企業参入には以下のような課題があります。
1. 国家安全保障上の課題
公益事業分野は、国家安全保障上非常に重要な分野です。そのため、外国企業が参入することで、フィリピンの国家安全保障に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、中国企業がフィリピンの電力インフラストラクチャーを支配することで、フィリピン政府が中国政府に対して弱みを握られる可能性があります。
2. 大統領が持つ投資差し止め権限
改正法では、大統領が外国人もしくは外国企業の支配に帰結する公共サービスヘのM&Aや投資に関して、差し止めなどを行う権限を持っています。このため、大統領の判断次第で外国企業参入が制限される可能性があります。
これらの課題に対しては、以下のような対策が考えられます。
国家安全保障上の課題と対策
1. 国家安全保障上の課題に対する対策
外国企業が参入する際には、国家安全保障上の問題を考慮した上で、必要な対策を講じる必要があります。例えば、外国企業の出資比率を制限することや、外国企業による重要なインフラストラクチャーの支配を禁止することが考えられます。また、外国企業が参入する際には、フィリピン政府が十分な監視体制を整備し、国家安全保障上の問題が発生しないようにすることも重要です。
大統領の投資差し止め権限と対策
2. 大統領が持つ投資差し止め権限に対する対策
大統領が持つ投資差し止め権限は、外国企業参入を制限する可能性があるため、不透明性を招く可能性があります。このため、フィリピン政府は、大統領の判断基準を明確化し、透明性を確保する必要があるでしょう。また、外国企業参入に関しては、事前に十分な情報開示を行い、政府との協議を進めることで大統領の判断基準に沿った投資活動を行うことも重要です。
以上のように、外国企業参入に伴う課題に対しては、適切な対策を講じることで解決できる可能性があります。フィリピン政府は、外国企業参入を促進する一方で、国家安全保障や公共サービスの維持についても十分な配慮を行うことが求められます。
終わりに:フィリピン公共サービス改正法の影響と見解
フィリピンの公共サービス法改正によって、外国企業の参入が容易になり、経済活性化が期待されます。しかし、国家安全保障上の懸念や大統領が持つ投資差し止め権限といった課題も存在します。これらの問題を適切に対処し、外国企業の参入を円滑に進めることが重要です。
国家安全保障上の問題に対しては、出資比率の制限や重要インフラの支配禁止などの対策が検討されています。また、大統領の投資差し止め権限に関しては、判断基準の明確化や透明性の確保が求められています。
フィリピン政府は外国企業参入を促進しながら、国家安全保障や公共サービスの維持にも十分な配慮を行い、バランスの取れた成長を目指すことが必要といえるでしょう。
参考
公共サービス改正法の実施細則、4月4日に発効(フィリピン) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ:https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/03/586d82eafd81aca3.html
外資規制を緩和、通信・運送などの分野は外資100%可能に(フィリピン) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ:https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/03/7cd8ab4bdc409c04.html
公共サービス法の改正法の実施細則:https://neda.gov.ph/irr-ra11659-psa/